名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)1212号 判決 1980年12月12日
原告
林俊行
被告
橋詰克治
右訴訟代理人
竹下傳吉
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一<省略>
二被告が昭和四三年一二月六日午前一〇時名古屋地方裁判所の同年(フ)第一八九号破産事件において破産宣告を受け、同事件につき、原告が昭和四四年一月七日本件株券貸渡時の時価相当額金二七万一、〇〇〇円を損害賠償債権として同裁判所に破産債権の届出をした事実は当事者間に争いがない。
三そして、<証拠>によると、被告は、原告との間で、右破産宣告後の昭和四四年一月二四日、被告の紛失した本件株券の前記時価相当額金二七万一、〇〇〇円の損害賠償債権と、同金員に対する右昭和四四年一月二四日から前記貸渡日の昭和四三年一月二四日までに遡つた期間につき年八分二厘の割合で計算した利息相当額の金員より端数金二二円を除いた金二万二、二〇〇円とを合計した金二九万三、二〇〇円を債務として承認し、これを利息年八分二厘の約で昭和四七年一月二四日までに原告に返済する旨合意した事実を認めることができる。<中略>
四ところで、<証拠>によると、原告が破産裁判所に届出でた前記破産債権(金二七万一、〇〇〇円)は、同年二月二四日の債権調査期日において破産管財人及び他の破産債権者の異議なく確定した事実を認めることができ、弁論の全趣旨によれば、右破産債権については、破産者である被告からの異議もなく、債務名義として確定したものであることが認められる。
しかしてまた、被告が、前記破産事件において昭和四五年六月二四日その破産債権につき免責の決定を得たこと、その後昭和四八年三月二二日、原告が右破産債権につき一部の配当を受けたことも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右配当金は金六万五、八七九円であつたことを認めることができる。
五そこで、以上の事実関係に照らして考察すると、原告は、被告の破産宣告(昭和四三年一二月六日)後である昭和四四年一月二四日に、既に届出済であつた原告の前記破産債権(金二七七万一、〇〇〇円)について、破産者(債務者)である被告との間で、右債務とこれに対する過去一年間の年八分二厘の割合による利息相当分とを合計した金二九万三、二〇〇円の債務を被告に承認させ、これを目的として更に右同率の利息を付して三年後に返済させる趣旨の準消費貸借契約を締結したことになるが、破産債権者と破産者との間において、破産宣告後に破産債権について締結された右のような契約は、破産財団に属する財産に関してなされた法律行為として、破産債権者・破産管財人に対してその効果を対抗し得ない性質のものであり(破産法五三条)、破産者との関係においては、一応有効といい得るにしても、被告がその後その破産手続において、免責の決定を得たことは前示のとおりであるから、右準消費貸借契約の目的となつた元本債権金二九万三、二〇〇円のうち、まず、届出の破産債権と同一の金二七万一、〇〇〇円について破産法三六六条ノ一二本文の規定による免責の効果が及ぶことは明らかであり、更に、右金員を元金として計算されたその余の金二万二、二〇〇円についても、その殆んどが破産宣告前の期間に遡つて算出された利息に相当する付帯債権であつて、これもひつきよう破産宣告前の原因によつて生じた債権と解することができるから、その元金であつた前記破産債権の免責とともに免責の効果を受けるものと解するのが相当であり、従つて、またその合計額たる右契約の元本金二九万三、二〇〇円に対する年八分二厘の割合による約定の利息、遅延損害金債権も、その基本債権の責任消滅によつて効力を失うものと解するほかない。
右趣旨において、被告の抗弁は理由がある。
六よつて、昭和四四年一月二四日の原、被告間の合意に基づく原告の本訴金二九万三、二〇〇円とその付帯金員の各請求は、いずれも理由がないから、これをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(深田源次)